DiaMech

Mechanistic Basis of Diabolo Tricks

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楕円軌道

1. 両手を固定したときディアボロは楕円軌道を描く

まずシンプルなところから考えるため、スティックの存在は無視します。よって「両手」とは実際にはスティックの先端を意味します。また、弾性とか諸々の細かい部分も無視します。ディアボロの両手からの距離の合計が常に紐の全長と等しくなるため、数学的に楕円軌道を描くとわかります。

両手を近づけると楕円は円に近づいていき、最終的には片手でまとめて持って円軌道で振り回しているだけになります。

ellipsoidal orbit

2. さらに重力と摩擦力を無視すると、ディアボロは等速楕円運動をする。

いくつかの方法によって示すことが出来ますが、最も簡単なのはエネルギー保存則です。重力及び摩擦力を無視すれば、ディアボロの運動エネルギー以外、系の変化しうる位置エネルギーはありません。エネルギー保存則によりディアボロは運動エネルギー一定、則ち等速運動をすることになります。

もう少し細かく考えてみると、ディアボロに働く力は紐の張力だけです。もうすこし厳密な言い方をすれば、ディアボロから見て両サイドの紐の張力を相殺するための、垂直抗力だけです。この垂直抗力は、2つの大きさの等しい張力の合成力になので、紐のなす角の二等分線に平行なベクトルです。エネルギー保存ということは、この力は楕円軌道に対して常に垂直になるはずです。

force vectors

3. 良いサンは横に広い楕円軌道を描く

以上の仮定は、vertax(重力無し)と水平軸(重力あり)、を単純化したものとみなせます。私はvertaxは出来ないので見なかったことにして、水平軸について考えます。摩擦が関与せず、腕の位置をあまり変化させない技、サン系やハイトスについてはこのモデルで考えてもよさそうです。

もっとも簡単なところで、インサイドアウトサンを考えてみましょう。この技ではディアボロはシンプルに両スティックの周りを回るだけ、近似的には周期的な楕円運動です。出来る人にとっては当たり前ですが、この技をするときには両手の間隔は広くとります。この両腕を広げるメリットについて、少し詳しくみていきます。(以下右利き目線です。)

まず、単純にそうしないと左腕にディアボロが下から当たってしまいます。両腕を広げた状態で左腕の内側を通過させることにより、左スティックとディアボロの距離を短くして、腕の内側の隙間を通すことができます。

仮に両手を近づけ円軌道に近い軌道にした場合でも、短めの紐を用いて体ごと右を向けば腕の内側を通すことは可能ですが、これは習得時によくある失敗フォームです。動作が大きく見た目が悪い上に、他の技との接続も良くなさそうです。例えばインサイドアウトからそのまま右ラップに繋ぐのは汎用的な技術ですが、円軌道ではかなり困難になります。また、平面維持の観点からも、ディアボロを体の前側にキープしたまま左腕ぎりぎりを通す楕円軌道に軍配があがります。

これは主観が入りますが、様式美的な目線でみても、スピードループやその他サン系を組み合わせたシークエンスにおいて、腕を広げた状態をキープすると綺麗だと思います。平面維持及び技の間の接続が良いのはもちろん、体の動きや腕の動きが最小限に抑えられ、スタイリッシュかつディアボロをコントロールしている感じがします。アウトサイドインや腕の上を通すサン、バックサンなど、類似の繋がる技は多いです。

参考

最後に大事な点ですが、楕円軌道でサンを行えば、なんと加速ができます。これも、ある程度以上のプレイヤーからしたら暗黙の常識だと思います。私もインサイドアウトだけで無限に続きます。

円軌道の場合、ディアボロは紐上を移動しないので当然加速はゼロ、摩擦のある現実では急激に減速します。アラウンドザワールド(スティックを持ちかえるだけのほぼ円のサン)は実際回転がかなり減るので不人気ですよね。

一方、楕円軌道の場合はディアボロは下側を通るときに加速方向、上側を通るときに減速方向に移動します。無重力ならプラマイゼロですが、重力下では下側で強い垂直抗力が働き、より強く摩擦がかかります。上側では反対に摩擦が減り、結果加速方向がやや勝って加速がかけられます。

もちろん実際には右手で「押す」動作や左手で「引く」動作が少なからず入るので今回のモデルからはズレてきますが、自分の感覚的には以上の議論はおおむね正しいと思います。